O型のまこさん

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趣味でいろいろ作った備忘録

6-2.アイのターボ化_44(セルモーターのOH)

6-2.アイのターボ化_44(セルモーターのOH)

■2020年11月

 ターボエンジンへの換装を終え、イザ帰路へ。f:id:otypemako:20201210094707j:plain

  行きと比べ荷物がずいぶん減った。基本的に持ってきたものはすべて持って帰っているのだが、インタークーラーやサクションパイプなど、車体に取り付けた部品の分だけ荷物が減ったのだ。ターボエンジンの代わりにNAエンジンを助手席に置いているので、相変わらず左サイドミラーは使えない。片側二車線では行きと同じように左側を走った。エンジン載せ替え後に10kmくらいの確認走行は行っているとはいえ、いきなり高速に乗るのは少し不安だったので初めの20km程は下道を走行。問題なさそうなので高速に乗る。一応2000km走行までは慣らし運転ということで回転数は4000rpm以下に抑えて走る。それでもNA時代とくらべパワフルさは格段に上がっている。エンジンの静かさ滑らかに感動している間にもう自宅は目前だ。

 中継地点(バラン星)あたりから尿意を感じていたのだが、家に帰ってからだと張り詰めた緊張感のなか走っていた。しかし高速を降り家まで10分というあたりで緊張が緩んだのか、尿意の強度が格段に上がってきた。もうダメだと近所の公園に入る。トイレはどこかと捜しているとT字路に公園の地図がある。よし!地図で確認だ、と車を止めエンジンを切って地図を見に行った。右方向100m先に駐車場とトイレがある。もう限界ギリギリだが、それくらいなら我慢できる。さあ、エンジンを掛けて100m先へGO!   キーを回してエンジン始動! ・・・・・シーーーーン。あれ?シフト入っている? とPに入れなおしてキーをON !  ・・・・シーーーーン  ('Д')。なんかわからんけど、もうがまんできないと、茂みに走っていき立ちション。そんな行為ここ10年したことがない。

 とりあえず落ち着いたところでもう一度エンジンスタート。しかしまったく応答なし。血の匂いが作業ミスの可能性が濃くなった。そんな! 首を切った完璧に作業したはずなのに!     焦るな、息を乱すな。落ち着け! 落ち着けば・・・ 今週もやってましたね。そして誰かがさっそうと現れるのです

 状況を整理すると、キーをONしてもセルモーターが回らない、まったく何の音もしない。リレー動作の音も聞こえないけど、荷物が満載だから聞こえないのかもしれない。でもキーをONするとメーターの表示がブラックアウトする。これって、一応セルモーターに通電したから電圧低下でブラックアウトするんだよね!って思ってた。とっさに考えた原因はオルタネーター。今のオルタネーターはターボエンジンについてきたやつ。見た目きれいで問題なさそうだったのでノーチェックだった。エンジン載せ替えた時はバッテリー電圧の変化を確認し、確実に発電していることを確認していた。こいつがちょっと走ったらくたばって発電しなくなったので、バッテリーが放電してしまってセルモーターが回らなくなったのではないか。それが原因なら実績のあるNAのオルタネーターと交換すれば解決するから、たいした問題ではない! とか思いながらテスターでバッテリー電圧を確認。 12.5V。 あれ? ちゃんと電圧あるなぁ。 

 どうする!どーするの? 公園の中とは言えT字路の真ん中に止めたまま悠長に確認作業とかしてられない。とりあえずあれだ! いざという時のため確認していたロードサービスに電話だ。ブースターつないでエンジンがかかればすぐだ! バッテリー電圧は十分あるけど、きっとブースターでちゃんとかかるはずだ(そう信じたい)。ロードサービスの方は20分ほどで到着。でっかいレッカー車でやってきた。このレッカー車で運ばれていく荷物満載のアイの姿を想像して泣きそうになる。

 ブースターで試してみたがまったく応答なし。ロードサービスの兄ちゃんが「レッカーに積んで工場に行きますか?」と言ってくる。俺は身の上話を始める。かくかくしかじかで、この車はエンジンを載せ替えたばかり。でもセルモーター周辺は触っていないので、そこに問題があるとは思えないと力説した。つまり「工場に連行されてちゃんと修理してくれとかは思っていない。とにかくこの場をしのげればいいのだ」という気持ちを目で語ったのだ。”察してくれ!” ・・・と。 

 その兄ちゃんは察してくれた。「じゃあ試しにセルモーターを叩きながらエンジンかけてみましょう」。”セルを叩く”という聞きなれない言葉を発して兄ちゃんは長い鉄の棒(スピナーかな?)を持ってきて、「じゃあキーONしてください」といいセルモーターをコンコン叩き始めた。すると「なんということでしょう!」エンジンはあっさり始動したのであります。30分以内の作業なので費用は発生せず、サインだけして兄ちゃんは去っていった。「俺が来るまでよくこらえた。後はまかせろ!」とかの決め台詞は残しませんでしたが、深々とお礼して見送ったのは言うまでもない。

 そのまま家に帰宅。本来の作戦は家の前に車を止め、荷物を降ろしてから駐車場に戻るというものだったが、またエンジン始動しなかったら困るので直接駐車場に戻った。停止後再びキーをONにしてもセルモーターは回らなかった(*_*; 。満載の荷物を160m離れた我が家に持って帰るのでそうとう疲れた。

 帰って一息ついてからネット情報を見ると、「セルモーターが回らない」「叩く」で検索すると同じような情報が山ほど出てくる。モーターのブラシとコンミュテーターの接触不良やリレーの動作不良が原因のようだ。とにかく「セルモーターが回らなければセルを叩く」ということでしばらくは乗り切ろう。そのための棒も載せておいた。しかしそれから一週間ほどはセルモーターが回らない事態は起こらなかった。でもそのまま放置はできないよね。エンジン載せ替えに全集中しすぎたせいで、日常がおろそかになっていたが、とにかくセルモーターのメンテだけはやってしまわないとね。

 まずはセルモーターの電気系統図。

 

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回路的には簡単で、キーON操作とシフトの位置により、セルモーターのマグネチックスイッチに通電する。マグネチックスイッチは電磁石のようなもので、通電により円柱状のシリンダーがスライドし、それによりピニオンギヤをスライドさせてドライブギヤにかみ合い、そしてモーター用のリレーを押すというわけだ。構成部品は下図の通り。

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セルモーターを取り外してOHすれば原因がわかるだろう。コンデンサータンクなどを移動しないとモーターにアクセスできないので、まずはコンデンサータンク内のクーラントを抜く。

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コンデンサータンクを少し前方に移動すればセルモーターへの道が開ける。

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セルモーターにはマグネチックスイッチ駆動用のコネクタ(1芯)とバッテリー直結のモーター駆動ケーブルが繋がっている。

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セルモーターはボルト2本で固定されている。ボルトを外せばセルモーターは結構簡単に外れた。

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ピニオンギヤ側はこうなっているのね。2cmほどスライドする機構になっておりエンジンスタート時のみエンジン側のドライブプレート外周のギヤと噛合うわけだ。

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今回のトラブル ”セルモーター回転せず!” の原因はセルモーターのOHを経て結論づけたのであるが、このマグネチックスイッチへの接続コネクタ部の接触不良が原因と判断した。写真でみてもわかるがこの端子、表面がほとんど銅の緑さびで覆われていた。コネクタ端子の接触する箇所だけが導通するという状態。このコネクタは1芯で上下どちらの向きでもさせる。

 今回のエンジン載せ替え時にコネクタの上下をそれまでとは逆に差し込んだんだと思う。だってどっちでもいいわけだから、組む時はそんな事考えてもいなかった。でも緑さびで覆われていたので、コネクタの接点以外は通電しない状態の端子になっていたので、コネクタの上下が逆になると接点の位置も変わって接続不良が起きたと推測している。それでもぎりぎり通はあり、初めは問題なく動いていたが、長時間走行による熱によりコネクタの接点位置にわずかなずれか何かが発生し、セルモーターが回らなかったのではないだろうか。

 それを裏付ける事象として、長時間走行(Bくん宅から自宅へ)した後は2度連続で回らなかったが、その後一週間、近場を走行しただけでは問題なく動いていたのである。ネットでの情報を見るとコンミュテーターとブラシの接触不良やマグネティックスイッチの固着が原因の主流であるが、私の場合はエンジン載せ替え前の10年間にはこんなことは一度もなく、エンジン載せ替えしたとたんに発生したトラブルなので、セルモーター内部の問題の可能性より、変更した所(コネクタ部)を疑う方が自然だ。

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とりあえずセルモーターを分解していく。

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マグネティックスイッチ部が外れた。

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なるほど、円柱部品がバネで押されていて、キーONで電磁石力でこの円柱部分を奥に引っ込めるのだな。

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ピニオンギヤのスライド機構も出てきた。

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後端側のカバーを外す。

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回転子はひっぱれば抜けた。でもブラシ4つがバネでビヨ~ンと出てきた。これって入れる時どうするんだろう?

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ブラシ高さは
 12V側ブラシ  :11.3mm、11.3mm
 GND側ブラシ:11.6mm、11.6mm

であった。ちなみに使用限度値は7mm。

コンミュテーターの外径も後で記述するが、使用限度値にはまだまだ余裕がある。というか新品状態からはほとんど摩耗していない感じである。でもこんなんでも修理工場に連行されると新品セルモーターに交換されるんだろうな。
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モーターケースはさびさびだったので、わずかに残っている耐熱塗料で塗装。でも永久磁石が入っているので焼き付け処理はなしね。温度上げたら磁力がなくなるもんね。

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セルモーターの全部品を並べて記念撮影。

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コンミュテーターの状態。まあたしかに”7万キロ走ったお古”という感じはする。

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コンミュテーターは旋盤で回して研磨しよう。そのためにはピニオンギヤのスライド機構部を取り外さないとチャックで軸を掴めない。スライド機構の抜け止め部品は下写真のような形状で、中にCリングが見える。このCリングを広げて抜き取ればいいのだろうと思ったのだ(この考えは間違いでした)。

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精密ドライバーを2本使ってなんとかCリングを外そうと試みました。でも取れない。ちょっとイライラしてきた。今までなかなか購入に踏み切れなかったスナップリングプライヤーを買ってこよう。 ・・・あ! 車が動かないので買いに行けない。ホームセンターまで車では10分だが、歩けば30分以上かかるだろう。駅前からバスで行こうか? でもバスの乗り方がわからん! バスなんて10年くらい前に乗ったきりだ。

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待て待て、まずは落ち着け! 整備解説書読んでみろ。 ということで読んだらちゃんと書いていました。Cリングを挟んでいる部品を適当なロングソケットをあてて、叩き込めということ。12mmのがぴったりだったので、その通り叩き込むと抜けました。

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こういう構造だと理解してしまえば次からは悩むことはないだろうけど、初めて叩く時はビビリながら叩いてました。なるほど、この部品がCリングを外側から押さえつけていたのね。

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これでピニオンギヤのスライド部が抜けた。

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軸に空き缶で作った板を巻いて旋盤のチャックで掴む。

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そしてコンミュテーター部を#400の耐水ペーパーから順に研磨していく。

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表面をサラッと研磨した状態。結構段差ができているんだね。

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最終的に青棒で研磨。ピカピカ。

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これらの作業において、レーシングアート様の情報を参考にさせて頂きました。ありがとうございます。

 さあ組み立てだ。グリスはどういったものを使えばいいのかわからなかったが、家にある一番耐熱の高いのを使った。自転車修理の時に入手したものだ。

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ピニオンギヤを差し込み、

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抜け止め部品をはめる。整備解説書ではプーラーで引き上げろと書いているが、プーラーなんて持ってない(実は持っていたけど忘れてた)。

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下写真のように金属棒(バイト)で挟んでかなづち一発。

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次は気になっていたブラシの組付け。手が4本あればできそうだけど私には2本しかない。いろいろ考えブラシの上側を30mmのボルトを挟んで、下側からコンミュテーターを入れればうまくいった。入った瞬間に気が付いた。ブラシ側の研磨してなかった。でももう一度この作業をするのはめんどくさかったので、もういいことにした。

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組み上げると、サビサビだったセルモーターもキリッと引き締まった感じに見える。

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さっそく組付け。

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ついでに入れすぎていたATフルードを少し抜く。

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アルミパイプを挿した注射器で”チュー”と吸うと簡単に抜けました。

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これでセルモーターのOHは終了。まったく問題なくエンジンスタートするようになり、2週間順調に動いているのでもう大丈夫だろう。

長かったエンジン換装への道のりも、今回の作業で完了したといえる。これでやっと一息つける。最後に各部の最終選別確認とターボのインプレッションを書いてアイのターボ化の項目は終了である。ターボ化の話は45ページで終了となるわけだ。