■2022年6月
TopManのトルクレンチはジャンク品として入手した。トルクレンチの構造を知ることが主目的だったが、使えるようにしようとして挫折ししばらく放置していた。一時はかなり大がかりな改造も考えたが計画半ばで情熱が冷めてしまってもう再燃しなかった。しかしFブレーキOH作業時に、感応式トルクレンチの必要性に迫られてとりあえず使えるように仕上げたので、その改造過程のおさらいを含めて掲載する。
このトルクレンチは動作ローラー部のボールベアリングが1個紛失した状態でジャンク品として入手した。同じサイズのベアリング(自転車整備時の余り)を組み込めば使えるようになると思ったが、低いトルク設定時はそれなりに動くが少し強めに設定すると動作はおかしく、実戦投入は無理っぽかった。
レバー部の動作範囲を広げた方が調整しやすいんじゃないかと下写真の丸で囲った部分を削ったら、トルク印加でカチッっと動作したら戻らなくなった。うん、当たり前だ。ローラーとの接触点が中心線を越えるとレバー部は戻らなくなるというわけ。この失敗で長期放置となった。
レバー部が戻らなくなった機能回復のためには調整可能なストッパ作ればいい。イモネジで調整部を製作。1回目はタップを折っちゃって、2個穴あけてます。
トルクレンチについて調べると様々なタイプがあること理解した。名の通ったメーカーの構造は各部にあまり大きな負荷がかからないように設計されており、使用回数が多くても動作精度が落ちにくい構造となっている。
しかしながらこのトルクレンチはかなり無理のある設計だ。ばらして各部品を見ると、高負荷のかかる接触点があちこち凹んでいて設計時の動作が望めない状態なのだ(つまりへたっている)。そもそも全長28cmのトルクレンチで108Nmまでのレンジ設定というのは明らかに無理がある。まずローラーとベアリングが接触する点が凹んでいる。
旋盤でローラーの凹み部を削って修正。
本体内部のボールベアリング接触部も凹んでいる。だってこの部材はアルミだ。やわらかいアルミ部材にボールベアリングの点接触で高負荷がかかれば簡単に凹むよね。
本体内部を削って修正する。
ボール盤に耐水ペーパーをセットして本体内部を研磨する。でも凹みが大きくこんな研磨ではまったく修正できない。
そこで色々考えた。せや! 手持ちのミニチュアボールベアリングを使って改造でけんやろか?
ベアリング2個並べてローラーの代わりに配置できれば動作精度はかなり上がるだろう。
ちょっとがんばればなんとかなりそうにも思える。
図を描がいて検討してみたんだけど、情熱が続かず断念。
ボールベアリング化は断念だが、使用レンジを低く抑えた仕様(30Nmくらい)であれば各接触点の負荷も低くて実用に耐えられるレンチになるんじゃないかと作戦を練り直した。そのためにはまずはバネレートの低いバネを使うべきだ。ホームセンターで使えそうなバネが売ってないかなと探したがそんな都合よい規格のバネは置いていない。よし、じゃあ削ってしまえとバネを削っていく。旋盤で回してバネ外周をリューターで削る。
バネの太さを半分くらいまで削った。もうちょっと削りたかったが心が疲れたのでこのへんで研磨終了。
本体内面のボールベアリングの接触部の凹みを回避するため、支点の穴を90°回転させた位置に穴をあけた。これで凹み部でないところを使える。これで組み上げて作業完了。
続いて校正作業。万力で支点を固定し、レバー部にぶら下げたタンクに水を注いでいき、トルクレンチがカチッっと動作したトルクを計測していく。
20Nmくらいからは鉄管でレバー長を延長して計測。鉄管は0.5kgほどあるので、おもりの重さから計算したトルク値にオフセットが出る(グラフ上で適当に補正する)。20Nmくらいまでは”カチッ”という感じの音で動作するが、25Nm越えたら”ガチッ”って音が濁ってきて、30Nmでの動作音は”ガッキィィーン”って感じでかなり無理のある音になってきた。このレンジで使い続けるとあっというまにアチコチ凹みそう。なので実用範囲は20Nmまでとする。
設定目盛りと動作トルクをグラフにプロット。オリジナルの作動ライン(灰色線)に対し改造後の作動ライン(緑色線)は傾きが半分くらいになっている。バネレートが半分くらいになってるからね。作動ライン(緑色線)は目測でえいや!で引いている。
作動ラインの目盛りシールを作成して張り付けて改造は完了。
点火プラグ(18±2Nm)、各部のM6ボルト(10Nm前後)などの締付で使える。
写真にもう一本トルクレンチが写っているが、これは最近入手したもの。詳細は後日掲載。